サーモグラフィや赤外線カメラは、対象物が放射する赤外線を検出して、表面温度の分布を画像として表示する機器です。工場設備の点検、建物診断、電気設備の保守、消防、研究開発などで広く使われています。
では、サーモグラフィの内部にもベリリウムが使われているのでしょうか。調査すると、一般的な携帯型サーモグラフィと、航空・防衛分野の特殊なEO/IRセンサーを同じものとして扱わないことが重要だと分かります。
一般的な赤外線カメラの公開資料では、レンズ材料としてゲルマニウムなどが示されています。一方、特殊な長距離EO/IRセンサーでは、ベリリウム製の光学部品とベリリウム・アルミニウム構造を採用した具体例があります。
サーモグラフィはX線装置ではない
X線装置では、X線を通しやすい性質を利用してベリリウムを窓材に使う場合があります。これに対して、サーモグラフィが検出するのは主に赤外線です。必要な波長も、光学部品に求められる性質も異なります。
| 機器 | 主に扱う電磁波 | 窓・レンズ材料の考え方 |
|---|---|---|
| X線装置 | X線 | X線透過性などからベリリウム窓が使われる場合がある |
| 一般的なサーモグラフィ | 中波長・長波長赤外線など | 赤外線を通すゲルマニウム、シリコン、ZnSe、ZnS、カルコゲナイドガラスなどが使われる |
| 特殊EO/IRセンサー | 可視光・赤外線など複数帯域 | 光学性能、軽量性、剛性、振動・温度安定性から特殊材料が選ばれる場合がある |
「画像を撮る装置」「窓がある装置」という共通点だけで、X線装置と同じ部材が使われていると判断することはできません。
一般的な赤外線カメラのレンズ材料
Teledyne FLIRは、赤外線カメラのレンズについて、ゲルマニウムや赤外線を吸収しにくい材料が使われると説明しています。同社の熱レンズ設計資料では、波長帯に応じた代表的な材料として次のものが挙げられています。
- MWIR(おおむね3~5µm):シリコン、ゲルマニウム、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、カルコゲナイドガラス、フッ化カルシウムなど
- LWIR(おおむね8~14µm):ゲルマニウム、セレン化亜鉛、カルコゲナイドガラスなど
これは代表的な光学材料の説明であり、個々のカメラの全構成材料を示すものではありません。ただし、一般的なサーモグラフィのレンズを、X線管と同じ「ベリリウム窓」と考えるのは適切ではありません。
ベリリウム使用を確認できる特殊EO/IRセンサーの実例
特殊用途では、赤外線を含む光学センサーにベリリウムが使われた例があります。Inrad Opticsが公開する技術資料では、BAE Systemsが開発したF-9120について、次の内容が説明されています。
- 高高度の戦術偵察向けに開発された小型・軽量のデュアルバンドEO/IR長距離センサー
- ベリリウム製の光学部品を採用
- ベリリウム・アルミニウム構造と組み合わせて使用
- 振動環境での光学性能と、広い温度範囲での安定性を重視
この例でベリリウムが選ばれた主な理由は、X線を通す窓材としてではなく、軽量性、剛性、振動に対する安定性、光学系と構造の熱膨張特性を合わせるためです。同じ「カメラ」でも、ベリリウムの役割はX線装置と異なります。
F-9120を一般的なサーモグラフィへ当てはめない
F-9120は航空用の特殊なEO/IR長距離センサーです。工場点検で使う一般的な携帯型サーモグラフィや、建物診断用の熱画像カメラとは、用途、構造、性能、環境条件が大きく異なります。
したがって、F-9120にベリリウム使用例があることを根拠に、「サーモグラフィには通常ベリリウムが入っている」と一般化することはできません。反対に、製品カタログにベリリウムの記載がないことだけで、内部の接点、コネクター、光学支持部品などを含めた完全な不使用を断定することもできません。
「ベリリウムを撮影する」と「機器に含まれる」は別
核融合研究、材料研究、製造工程などでは、ベリリウム部材の表面温度をサーモグラフィで測定する場合があります。この場合、撮影対象にベリリウムが使われているのであり、赤外線カメラ本体にベリリウムが含まれることを意味しません。
検索結果や研究資料を確認するときは、次のどの意味で「beryllium」と「infrared camera」が一緒に書かれているのかを区別します。
- カメラの部品・構造材料としてベリリウムを使用
- ベリリウム製の対象物を赤外線カメラで撮影
- ベリリウムを添加した特殊な赤外線検出材料の研究
- X線カメラを赤外線カメラと誤って混同
処分前に確認したい固有名詞と型番
熱画像・赤外線機器を処分する場合は、「サーモグラフィ」という一般名だけでなく、次の情報を記録します。
- 完成品のメーカー名、製品名、型式、製造番号
- 赤外線カメラコアや検出器モジュールの製品名・型式
- 交換レンズ、望遠レンズ、光学ユニットの部品番号
- ジンバル、安定化機構、冷却装置の型式
- 軍用・航空用・研究用などの用途区分
- 材料宣言、RoHS/REACH資料、SDS、部品表、整備記録
一般的なFLIR製品については、FLIR Trust Centerや製品サポートから、製品別の適合宣言や材料情報を探せます。製品シリーズ名だけで判断せず、正確な型式と製造時期を指定してメーカーへ照会することが重要です。
検索時に使える名称の例
- BAE Systems F-9120 beryllium optics
- F-9120 dual-band EO/IR long range sensor
- thermal camera material declaration + 型式
- infrared camera recycling information + 型式
- EO/IR sensor beryllium aluminum structure
- 赤外線カメラ 部品表 材料証明 + 製品型式
検索結果は候補の抽出に使い、最終的な含有判断はメーカー資料、図面、現物表示、メーカー回答で行います。
撤去・廃棄時の注意点
特殊な光学機器では、表面処理された鏡、薄肉化された構造部品、複合材料、冷却機構などが使われる場合があります。材質確認のために鏡や構造体を削る、研磨する、切断することは避けてください。
機器の用途や機密性によっては、メーカー返却、輸出管理、データ消去、資産管理など、材料以外の手続きも必要になる場合があります。処分前に所有者・設備管理担当者と確認し、型式・写真・資料をそろえて専門事業者へ相談します。
まとめ
一般的なサーモグラフィでは、赤外線を通すレンズ材料としてゲルマニウムなどが使われます。X線装置と同じ理由でベリリウム窓が使われると考えることはできません。
一方、BAE SystemsのF-9120のような特殊なEO/IR長距離センサーでは、軽量性、剛性、振動・温度環境での安定性を目的に、ベリリウム光学部品とベリリウム・アルミニウム構造が使われた実例があります。
「サーモグラフィ」という分類だけで含有を断定せず、完成品、カメラコア、レンズ、光学ユニット、ジンバルの型式を分けて確認することが、正確な調査と適切な処分につながります。
